お知らせ

SCA フレーバーホイールについて 2016年RE:CO シンポジウムより

今回はアメリカスペシャルティコーヒー協会(SCAA[現在はSCA])のフレーバホールの成り立ちについてのご紹介です。
この記事は2016年にダブリンで開催されたRE:COシンポジウムでのPeter Giuliano氏による講演内容を要約したものです。

SCAA フレーバーホイールについて

このホイールの開発には2つの科学的な研究と5カ所の研究所、そして3カ国に住む数百人が関わっています。

一つ目の研究 SPRED

2007年のルワンダでの話です。この当時、ルワンダのスペシャルティコーヒーの評判はあまり良いものではありませんでした。それはプロセシングに問題があったからです。この問題を解決するプロジェクトの一つがTim Schilling氏によるSPREDです。このプロジェクトでは、プロセシングにはケニア、エチオピア、中米などの処理方法をそのまま持ち込むのではなく、一からルワンダで最適な方法を作り上げていくというものになりました。どの熟度のチェリーを収穫するのか、パルピングするまでの適切な時間とは、パルピングする機械は何が良いのか、発酵時間はどのくらいか、など様々な興味深い検証がされました。そして1年半の様々な比較検証の結果をアメリカでカッピング検証しました。

一定の結果は得られたのですが、今までの100点満点のカッピング評価方法は今回のような検証にはあまり適切ではないことがわかりました。検証から得られたことはありますが、今回の場合は情報と評価方法が課題に合っていなかったということです。
適切に評価できないということは、問題を解決できないということです。

二つ目の研究 World Coffee Research(WCR)

同時期に同じような取り組みがWCRで始まっていました。WCRは気候変動にも耐えられ、収穫量もある品種の改良などをおこなっていますが、はじめに何か評価方法が必要だと考えていました。
Tim Schillingは科学者として既存の評価方法で転用可能なものはないかを探しました。そこで見つけたものがSensory Descriptive Analysis(感覚の記述的な分析)です。
コーヒーを味わって表現して採点することと一見変わりはないようですが、実は大きく違います。
それを説明します。
科学者のジャッキーさん、彼女はカンサス大学のセンサリーアナリストです。
仕事は「味わうこと」です。コーヒー、チョコレート、ワイン、スナック菓子、ドッグフードなどを味わいます。
それぞれの分野の専門家ではなく、その分野の知識もないので客観的に味を見ることが可能なのです。
彼女やその同僚たちによる協力を得て、センサリーの辞典(Sensory Lexicon)を作ることになりました。
100種以上のコーヒーを飲み、表現して、何度も再検証をして最終的に110の言葉がコーヒーに頻出する表現として出来上がりました。それがWCRのSensory Lexiconです。
このレキシコンは辞書だけではなくレシピも掲載しています。
Sensory Lexiconが出来上がった時、私は既存のSCAAのFlavor Wheelと比較してみたいと思い
ました。
良い知らせは、約40項目は全く同一かほぼ同一の表現だったことです。
ただSensory Lexiconの方が再現可能な科学的な手法によって作成されていることもあり、分かりやすく現実的な表現により成り立っているました。
ではこの110の言葉によるLexiconをどのように活用するのかという疑問が出てくるでしょう。
カルフォルニア大学デイビス校のモリー博士のプラグラムにより、項目ごとにアレンジすることになります。
博士はコーヒーの専門家やセンサリーアナリストに協力してもらい項目を段階的に分類していきました。この分類の過程で、コーヒーカッパーとセンサリーアナリストとの風味属性の分類基準がとても似ていることも判明したので、その事実にとても自信を得ました。つまり実際にコーヒーに感じたものにより成り立っているということです。

新フレーバーホイール作成へ

そしてScatter Plotという円形の属性の近似性分布図を作成しました。
これらの二つの要素により、新しいフレーバーホイールが出来上がりました。
出来上がったホイールは白黒です。もう一つ科学的な研究が必要でした。
色です。人は味覚嗅覚と色を関連付けることができます。
レモンを表現する完璧な黄色や、りんごを表現する完璧な赤を見つけ出すということです。
この科学的な研究を用いることにより、カラーのフレーバーホイールが出来上がりました。
フレーバーホイールは中心から三段階に広がっています。中心の表現は一番大枠の表現で、外側がより具体的な表現です。また横の繋がりも三種類あります。隣同士の間隔が大きいものは近似性が最も少なく間隔の狭いものは近似性が高いということです。
発明や研究などはエジソンなどの一人で研究し発見していくというイメージがあると思いますが、多くの人が関わり合い、ともに協力しながら研究し発明していくというのがより現実的ではないでしょうか。
新しいフレーバーホイールはまさにそれを体現しているものです。

以上